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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)242号 判決 1998年12月10日

原告

石田鑑三

右訴訟代理人弁護士

竹原茂雄

被告

東京都固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

森田重夫

右訴訟代理人弁護士

川上俊宏

右指定代理人

高山猛

外二名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告が原告に対し平成九年六月三〇日付けでした、固定資産課税台帳に登録された別紙物件目録記載の土地の平成九年度の価格に対する審査の申出を棄却する旨の決定を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有する原告が、固定資産課税台帳に登録された本件土地の平成九年度の価格につき、右価格は、本件土地が都市計画街路の予定地に定められ、本件土地上に建物を建築することができないことにつき十分な減価補正を行わずに評価、決定されたものであるとして、被告に対し、地方税法(以下「法」という。)四三二条一項に基づく審査の申出をしたところ、被告が右審査の申出を棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をしたため、原告がこれを不服として、法四三四条一項に基づき、本件決定の取消しを求めている事案である。

一  関係法令等の定め

1  固定資産税の課税標準たる価格の決定

法の本則によれば、基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格で固定資産課税台帳に登録されたもの(以下「登録価格」という。)とされ(三四九条一項)、基準年度の翌年度(第二年度)及び翌々年度(第三年度)の固定資産税については、原則として基準年度の価格が据え置かれ、基準年度の価格が課税標準となる(同条二項、三項)。

そして、法によれば、右の「価格」とは、適正な時価をいうものであるところ(三四一条五号)、法は、固定資産の評価に関して、自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準。以下「評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない旨規定し(三八八条一項)、市長村長等は、固定資産の評価及び価格の決定に当たっては、評価基準によらなければならないものとしている(三八九条一項、四〇三条一項、七四五条一項参照)。

2  評価基準における土地の評価

評価基準(昭和三八年自治省告示第一五八号。ただし、平成一〇年自治省告示第八七号による改正前のもの。以下同じ。)における土地の評価方法は、概要次のとおりである。

(一) 通則

(1) 土地の評価の基本

土地の評価は、土地の地目(田、畑、宅地、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、雑種地)の別に、評価基準の定める方法によって行う。この場合において、土地の地目は、土地の現況によるものとする(第1章第1節一)。

(2) 地積の認定

各筆の土地の評価額を求める場合に用いる地積は、原則として、土地登記簿に登記されている土地については土地登記簿に登記されている地積によるものとし、土地登記簿に登記されていない土地については現況の地積によるものとする(第1章第1節二)。

(二) 宅地

(1) 宅地の評価

宅地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の評価額を求める方法によるものとする(第1章第3節一)。

(2) 評点数の付設

各筆の宅地の評点数は、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」によって、主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価法」によって付設するものとする(第1章第3節二柱書)。

(3) 「市街地宅地評価法」による宅地の評点数の付設

「市街地宅地評価法」による宅地の評点数の付設は、以下のとおり行う。

ア 地区区分と標準宅地の選定

市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等に区分し、当該各地区について、その状況が相当に相違する地域ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のうちから、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められるものを標準宅地として選定するものとする(第1章第3節二(一)1(1)、2(1)、(2))。

イ 路線価の付設

標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価(単位地積当たりの価額)を付設し、これに比準して主要な街路以外の街路(以下「その他の街路」という。)の路線価を付設するものとする(第1章第3節二(一)1(2))。

なお、宅地の評価において、標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の一月一日の地価公示法による地価公示価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の七割を目途として評定するものとする(同章第12節一)。

また、平成九年度の宅地の評価においては、市長村長は、平成八年一月一日から同年七月一日までの間に標準宅地等の価格が下落したと認める場合には、評価額に修正を加えることができるものとする(同節二)。

ウ 各筆の宅地の評点数の付設

各筆の宅地の評点数は、路線価を基礎とし、「画地計算法」、すなわち、一画地の宅地ごとに、当該土地の奥行、正面路線のほかに側方あるいは裏面路線があるか否か、不整形地、無道路地、間口が狭小な宅地であるか否かなど、当該宅地の立地条件に基づき所定の補正を加える方式を適用して求めた評点数によって付設するものとする。この場合において、市長村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、「画地計算法」の付表等について、所用の補正をして、これを適用するものとする(第1章第3節二(一)1(3)、4、別表第3)。

(4) 評点一点当たりの価額の決定

評点一点当たりの価額は、自治大臣又は都道府県知事が指示する宅地の指示平均価額に宅地の総地積を乗じ、これをその付設総評点数で除した価額に基づいて市長村長が決定する(第1章第3節三1)。

3  都市計画施設の予定地に定められた宅地の評価上の取扱い

都市計画施設の予定地に定められた宅地等の評価上の取扱いについては、昭和五〇年一〇月一五日付け自治固第九八号自治省税務局固定資産税課長通達(以下「課長通達」という。)が発せられている。

課長通達によれば、道路、公園等の都市計画施設の予定地に対する建築規制に基因してその価格が低下している宅地について、その価格事情を路線価の付設等によって価額に反映させることが困難な場合には、その価格事情に特に著しい影響が認められるときに限り、当該宅地の総地積に対する都市計画施設の予定地に定められた部分の地積の割合を考慮して定めた三割を限度とする補正率を適用して、その価額を求めることとしても差し支えないものとされている(乙八)。

4  東京都における土地の評価の取扱い等

(一) 東京都(以下「都」という。)は、その特別区の存する区域において、都民税として固定資産税を課するものとされており、この場合においては、都を市とみなして法第三章第二節の規定を準用するものとされている(法七三四条一項、五条二項二号)。

(二) 都においては、評価基準に基づき東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領(昭和三八年五月二二日付け三八主課固発第一七四号主税局長決裁。ただし、平成九年三月三一日付け八主資評第三三三号により改正された後のもの。以下「取扱要領」という。)を定め、評価基準及び取扱要領(以下、両者を併せて「評価基準等」という。)に基づき土地の評価を行っている。

取扱要領によれば、都市計画街路及び都市高速鉄道の予定地として都市計画法五三条により建築が制限されている宅地については、取扱要領付表13(本判決別表2)に基づき、用途地区及び総地積に対する当該予定地の地積の割合に応じた画地補正率を適用して画地計算を行うこととしている(乙一、一四)。

(三) なお、東京都知事(以下「都知事」という。)は、法七三四条一項、東京都都税条例四条の三により、徴収金の賦課徴収に関する事項は、一定の事項を除いて、都税の納税地所管の都税事務所長又は支庁長に委任しており、固定資産の価格の決定等に関する事項のうち価格の決定以外の事項は、都税事務所長に委任されている。

二  前提となる事実

(以下の事実のうち、証拠等を掲記したもの以外は、当事者間に争いがない事実である。)

1  当事者

原告は、平成九年度の固定資産税の賦課期日である平成九年一月一日現在、本件土地を所有していた者であり、本件土地に係る同年度の固定資産税の納税義務者である(弁論の全趣旨)。

2  本件土地の状況

本件土地は、渋谷区神宮前二丁目に所在し、西側で幅員二一メートルの歩道付き舗装都道(明治通り)に接面し、北側で幅員5.5メートルの舗装区道に接面している南北に細長い平坦な台形の土地であり、その東側の隣地には、「ビラ・ビアンカ」と称する七階建の建物(以下「隣接建物」という。)が建てられている。

本件土地については、昭和二一年三月二六日付けで、都市計画街路の都市計画決定がされており、また、本件土地は、昭和三八年五月二日付けで、建築基準法四二条一項五号に基づく道路位置の指定を受けているが、平成九年一月一日現在の現況は、その大部分が駐車場として利用されていたほか、本件土地の北側部分には、隣接建物に通ずる支柱で支えられた屋根付の工作物が設置されており、道路としての利用はされていなかった。

なお、本件土地は、右のとおり、都市計画街路の予定地とされているが、現段階において事業決定の予定は立てられていない。

(甲二、四、乙二ないし五、七、一二、一三、弁論の全趣旨)

3  本件土地の登録価格の決定等

都知事は、本件土地に対する平成九年度の固定資産税の課税標準となるべき価格を二億五〇一九万七〇五〇円とする旨決定し、東京都渋谷都税事務所長(以下「渋谷都税事務所長」という。)は、これを固定資産課税台帳に登録したが、その後、都知事は、平成九年五月八日付けで右価格を一億九二九二万三〇二〇円と修正する旨決定し、渋谷都税事務所長は、同日付けで右修正された価格(以下「本件登録価格」という。)を固定資産課税台帳に登録し、原告に対しその旨通知した。

4  審査の申出

原告は、平成九年四月一六日、被告に対し、本件土地の平成九年度の当初の登録価格二億五〇一九万七〇五〇円は、本件土地が都市計画街路の予定地になっており、建物を建築することができないことにつき十分な減価補正が行われずに評価、決定されたものであるとして、法四三二条の規定に基づき審査の申出をしたところ、右3記載のとおり、渋谷都税事務所長から原告に対し登録価格修正の通知があった。しかし、原告は、右修正後の本件登録価格について、なお不服があったので、同年五月一九日、被告に対し、改めて審査の申出をした。

5  本件決定

被告は、平成九年六月三〇日、原告の右4記載の審査の申出を棄却する旨の本件決定をし、同年七月五日、その決定書正本が原告に送達された(甲二、三の1、2、弁論の全趣旨)。

三  本件決定の適法性についての被告の主張

本件土地に対する平成九年度の固定資産税の課税標準となるべき価格は、以下のとおり、一億九五七一万八四七〇円であり、本件登録価格は、右の価格を下回るから、原告の審査申出を棄却した本件決定は適法である。

1  本件土地の地目

本件土地の登記及び現況地目はいずれも宅地であり、本件土地は、主として市街地的形態を形成する地域における宅地に該当するから、「市街地宅地評価法」によりこれを評価する。

2  本件土地が属する地域の用途地区区分

本件土地の西側の正面路線の属する地域については、高度商業地区の外延部又は地域の拠点として鉄道駅の周辺に位置し、一般的な商業施設や事務所等が連たんしている。右地域は、高度商業地区に比べ資本投下量が少なく商業密度も低いが、低層併用住宅地区より商業密度が高い地区に該当するから、普通商業地区に区分される。

本件土地の北側の側方路線の属する地域については、低層普通住宅地区より敷地が広く、高度利用が進んでおり、中高層共同住宅の敷地として利用されている画地が多い地区に該当するから、中高層普通住宅地区に区分される。

3  側方路線の存在

本件土地は、正面と側方に路線がある画地、いわゆる角地である。

こうした角地の価格は、正面路線のみに接する画地の価格より一般的に高くなるものであるから、正面路線から求めた基本単価を補正する必要がある。具体的には正面路線のみに接するとした場合の基本単価に、副路線を正面路線とみなして計算した評点に当該用途地区の取扱要領付表2に定める側方路線影響加算率を乗じて求めた評点を加算して補正することになる。

4  標準宅地の選定

都知事は、右の普通商業地区(正面路線)及び中高層普通住宅地区(側方路線)について、その状況が類似した地域ごとに区分し、その地域ごとに標準宅地を次のように選定した。

(一) 正面路線に沿接する地域渋谷区神宮前一丁目三番四及び同番六に所在する土地(以下「標準宅地①」という。)

(二) 側方路線に沿接する地域渋谷区神宮前二丁目二八番一一に所在する土地(以下「標準宅地②」という。)

5  路線価の付設

都知事は、次のとおり、本件土地の正面路線及び側方路線の路線価を付設した。

(一) 標準宅地①に係る適正な時価については、価格調査基準日である平成八年一月一日時点の不動産鑑定価格一平方メートル当たり三一七万円を活用し、その七割程度の価格をもって二二一万円とした。

標準宅地②に係る適正な時価については、価格調査基準日である平成八年一月一日時点の不動産鑑定価格一平方メートル当たり七八万六〇〇〇円を活用し、その七割程度の価格をもって五五万円とした。

(二) 右の各標準宅地の価格に基づいて、標準宅地①の沿接する主要な街路の路線価を二二一万点、標準宅地②の沿接する主要な街路の路線価を五五万円とそれぞれ付設した。

(三) 標準宅地①の沿接する主要な街路と本件土地の沿接する正面路線とを比較し、その格差を幅員、連続性等の街路条件一〇〇パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件一〇〇パーセント、商業密度等の環境条件一〇〇パーセント、容積率等の行政的条件一〇〇パーセントと算定し、これらを乗じた格差率一〇〇パーセントを右主要な街路の路線価に乗じて、正面路線の路線価を二二一万点と付設した(別表1の①)。

(四) 標準宅地②の沿接する主要な街路と本件土地の沿接する側方路線とを比較し、その格差を幅員、連続性等の街路条件九九パーセント、最寄駅への距離等の共通・接近条件九九パーセント、商業密度等の環境条件一〇二パーセント、容積率等の行政的条件一〇一パーセントと算定し、これらを乗じた格差率一〇一パーセントを右主要な街路の路線価に乗じて、側方路線の路線価を五五万五〇〇〇点と付設した(別表1の②)。

6  画地計算法による評点数の付設

右5(三)、(四)記載の路線価は、評価基準等に従って適法に付設されたものであり、これを基礎として、評価基準等に定める「画地計算法」に従って、本件土地の評点数を算出すると、次のとおりとなる。

(一) 正面路線からの本件土地の奥行は4.5メートルと認められるから、取扱要領別表1に基づき奥行価格補正率0.92を適用して、基本単価を二〇三万三二〇〇点と算出する(別表1の③)。

(二) 次に、側方路線からの本件土地の奥行は36.2メートルと認められるから、取扱要領別表1に基づき奥行価格補正率0.94を適用し、間口は4.1メートルと認められるから、取扱要領付表4に基づき間口狭小補正率0.94を適用し、奥行距離を間口距離で除した割合は八以上九未満と算定されるから、取扱要領付表5に基づき奥行長大補正率0.90を適用し、さらに、本件土地は中高層普通住宅地区にあるので、取扱要領付表2に基づき、側方路線影響加算率0.04を適用して、加算評点を一万六六五〇点と算出する(別表1の④)。

(三) 前記(一)の基本単価に右(二)の加算評点を加算した上、本件土地については、都市計画街路として決定されている部分の面積割合が六〇パーセント以上と判断されるから、取扱要領付表13(本判決別表2)に基づき、都市計画街路補正率0.70を適用して、時点修正前単位地積当たり評点を一四三万四八九五点と算出する(別表1の⑤)。

(四) そして、右(三)の時点修正前単位地積当たり評点に、平成八年一月一日から同年七月一日までの時点修正率0.92を乗じて単位地積当たり評点を一三二万〇一〇三点と算出し(別表1の⑥)、これに地積を乗じて総評点を一億九五七一万八四七〇点と算出する(別表1の⑦)。

7  評価額の算出

右6の本件土地の総評点一億九五七一万八四七〇点に評点一点当たりの価額一円を乗じて評価額を求めると、本件土地の価格は、一億九五七一万八四七〇円となる(別表1の⑧)。

四  争点及び争点に関する当事者の主張

1  本件の争点は、本件登録価格の適否であり、具体的には、都市計画街路の予定地に定められ、かつ、建築基準法四二条一項五号に基づく道路位置の指定を受けている本件土地について、取扱要領に基づき都市計画街路の予定地として三〇パーセントの減価補正しか行わないことが、本件土地の評価として適正なものといえるか否かが問題となる。

なお、原告は、前記三記載の被告の主張する本件土地の評価の根拠となる事実及び価格の算出過程に関しては、都市計画街路の予定地と定められていること等による建築規制がある点についての評価方法を除いて、明らかには争っていないから、これを自白したものとみなす。

2  右争点に関する当事者の主張は、次のとおりである。

(被告の主張)

(一) 都市計画施設の予定地に定められた宅地等の評価上の取扱いについては、前記一3記載のとおり、課長通達により、当該宅地の総地積に対する都市計画施設の予定地に定められた部分の地積の割合を考慮して定めた三割を限度とする補正率を適用して、その価額を求めるものとされているところ、課長通達は、次に述べるとおり合理性を有するものである。

(1) 都市計画法による都市計画街路の予定地に係る建築制限に伴う土地の評価については、当該土地の特性、例えば、道路斜線制限とか北側斜線制限をどの程度受けるかなど、あるいはそれらの地域における土地利用の特性、例えば、周辺建物が指定容積率の範囲を完全に利用している状況にあるかなど、個々に調査した上、実質的にその受けている規制による影響の度合いによって評価することが望ましいが、一定期間内に大量の土地評価を行わなければならない固定資産税の評価事務において右の調査を行うことは技術的に困難であることから、都市計画街路の予定地に係る建築制限に伴う土地評価の補正率は一律に定めざるを得ないものである。

(2) そして、この場合において、減価率をどの程度にするかは難しい問題であるが、結局、評価基準における他の理由による補正率や、他の法律における取扱いを参考にすべきところ、評価基準における無道路地や不整形地の場合の補正率についてみると、いずれも上限を三割とする補正率を採用していることから、課長通達は、都市計画街路予定地に係る建築制限に伴う土地の評価についても、これにならって補正率の上限を三割としているのであって、課長通達には合理性があるというべきである。

なお、相続税法上の取扱いにおいては、相続財産である土地が都市計画街路の予定地であるため、建築制限を受けている場合には、都市計画街路の予定地に該当する部分についてのみ三割の減価をすることとされているところ、課長通達における三割を上限とする補正率の適用は、都市計画街路予定地に該当する部分だけでなく、当該土地全体について適用するものであるから、相続税法上の取扱いより、いっそう納税者に有利な取扱いとなっているものである。

(二) 取扱要領は、課長通達に基づいて、当該宅地の総地積に占める都市計画施設の予定地の割合を考慮して、上限を三〇パーセントとする補正率を定めているものであり、これに従って、都市計画街路補正率0.70を適用して行った本件土地の評価に違法とされるべき点はない。

なお、都知事が取扱要領作成の参考とするため、財団法人日本不動産研究所に都市計画街路の予定地の補正率について調査を依頼したところ、住宅・工業系、普通商業系の地域における都市計画街路の予定地であることによる格差率は最大三〇パーセントであるとの調査結果が得られており、取扱要領において補正率の上限を三〇パーセントとしたことには十分な根拠があるものである。

(三) 原告は、本件土地が都市計画街路予定地になっているばかりか、道路位置指定を受けているので、三〇パーセントの減価補正をするだけでは不十分である旨主張する。

しかしながら、本件土地は、道路位置指定を受けているものの、現況は、駐車場として利用されており、道路として利用されていないことは明らかである。評価基準は、土地の評価は現況によって行う旨を規定しており、たとえ道路位置指定がされた土地であっても、本件土地のように現況が駐車場であり、不特定多数の通行が予定されていない土地については、評価基準において特別の取扱いを行うことは求められていないものである。

(原告の主張)

(一) 本件土地については、都市計画街路の都市計画決定がされているほか、建築基準法四二条一項五号に基づく道路位置の指定がされている。

都市計画施設の区域の建築については、都市計画法五四条により一定の条件の下に建築が許可される場合があるが、道路位置指定を受けた土地については、道路位置指定の解除がされない限り、建物を建築することはできない。もとより、一般的には、道路に接する利害関係人全員の同意があれば、道路位置指定の解除をすることができるが、本件土地の道路位置指定を解除すると、本件土地の隣接地に建てられている隣接建物が容積率の関係で違法建築となるところ、かかる場合には、建築基準法四五条により特定行政庁はその道路の廃止を禁止又は制限することができるのであって、結局は、本件土地は、隣接建物が存立している限り道路として利用するしかないものである。

したがって、本件土地について、単純に都市計画街路の都市計画決定がされた土地として三〇パーセントの減価補正をするだけでは不十分であることは明らかである。

(二) 法三四一条五号によれば、固定資産の価格とは適正な時価をいうものであるところ、建物が建てられない本件土地について、都知事が決定した一平方メートル当たり一三〇万一二〇〇円という本件登録価格は、通常の取引価格を著しく超えるものであり、本件登録価格が法に違反することは明らかである。

第三  当裁判所の判断

一  固定資産税における固定資産の評価について

固定資産税は、土地、家屋及び償却資産の資産価値に着目して、その所有者に課される財産税であり、固定資産の価格、すなわち、固定資産の適正な時価で、固定資産課税台帳に登録されたものがその課税標準とされているものである。そして、右の固定資産の適正な時価とは、土地、家屋及び償却資産の各資産ごとの正常な条件の下における取引価格、換言すれば、当該固定資産の客観的な交換価値をいうものと解される。

そこで、固定資産の適正な時価をどのようにして評価すべきかが問題になるが、課税の対象となる固定資産は全国、各市町村に大量に存在しており、これらについて限りのある人的、物的資源を活用して、原則として三年ごとに、一定の期間内に適正な時価の評価を行うことは極めて困難な作業であることから、法は、自治大臣の定めた評価基準という定型的、統一的な基準に従ってその評価を行わせることとし、これによって、大量に存在する固定資産の評価を一定の期間内に適正に行い、各市町村相互間、各市町村内の各固定資産の間の評価の均衡を確保し、評価に関与する者の個人差に基づき評価の不均衡が生ずることを防止しようとしているものと解される。

右の法の趣旨からすれば、評価基準自体が違法であるというような特段の事情がない限り、固定資産の価格の評価が評価基準に従って適正に行われている以上、その価格は、法上は固定資産税の課税標準として適正な価格とみるべきである。

二  本件土地が都市計画街路の予定地に定められていることによる減価補正について

1  都市計画法は、都市計画施設、すなわち、都市計画において定められた同法一一条一項各号の施設の整備が円滑に行われるようにするため、都市計画施設の区域内において建築物の建築をしようとする者は、政令で定める軽易な行為等を除き、建設省令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければならない旨定めている(同法五三条一項)。そして、同法は、都道府県知事は、右の建築の許可の申請があった場合において、当該建築が都市計画施設に関する都市計画に適合し、又は当該建築物が、階数が二以下で地階を有せず、主要構造部が木造、鉄骨造、コンクリートブロック造その他これらに類する構造であり、容易に移転し、若しくは除却することができるものであると認めるときは、その許可をしなければならない旨規定している(同法五四条)。

2  このような都市計画施設の予定地に対する建築規制に基因して、宅地の価格が低下する場合があることは、経験則上明らかであるが、評価基準は、都市計画施設の予定地に対する建築規制に基因する減価補正について明示的な規定は設けていない。

しかしながら、評価基準は、「市街地宅地評価法」に関して、市町村長は、宅地の状況に応じ必要があるときは、「画地計算法」の付表等について、所要の補正をして、これを適用するものとする旨定め(評価基準第1章第3節二(一)4後段)、また、「その他の宅地評価法」に関して、市町村長は、宅地の状況に応じ必要があるときは、「宅地の比準表」について、所要の補正をして、これを適用するものとする旨定めているところであり(同節二(二)5後段)、市長村長が、右各規定の定める「所要の補正」(以下、単に「所要の補正」という。)として、都市計画施設の予定地に対する建築規制に基因する減価補正を行うことは、評価基準の是認するところであると解される。そして、前記第二の一3記載の課長通達は、都市計画施設の予定地に対する「所要の補正」ついて、自治省として統一的な運用の指針を示したものと解することができる。

3 都市計画施設の予定地に対する建築規制が宅地の価格に与える影響の程度は、当該宅地の総地積に対する都市計画施設の予定地の地積の割合、当該宅地の用途、容積率など個別の宅地の状況によって異なり得るものであるが、評価の適正と均衡を確保しつつ、大量の固定資産を一定の期間内に評価しなければならない固定資産税における評価事務の性質上、「所要の補正」として行う、都市計画施設の予定地に係る減価補正についても、定型的な基準に基づいて画一的に行わざるをえないものである。

この点につき、都においては、前記第二の一4(二)記載のとおり、取扱要領により、都市計画街路及び都市高速鉄道の予定地として都市計画法五三条により建築が制限されている宅地については、用途地区及び総地積に対する当該予定地の地積の割合に応じて減価補正を行うこととし、高度商業地区、繁華街、ビル街については補正率の上限を四〇パーセントとし、その余の用途地区については補正率の上限を三〇パーセントとしているところ、乙一五及び弁論の全趣旨によれば、都知事は、取扱要領作成の参考とするため、財団法人日本不動産研究所に対し、東京都特別区における都市計画街路及び都市高速鉄道の予定地を含む画地の補正率の調査を依頼したこと、これを受けて、同研究所は、不動産鑑定士らが収益方式及び比較方式を併用して右の補正率を判定し、高度商業地区、繁華街、ビル街についての補正率の上限を四〇パーセント、普通商業地区、中高層併用住宅地区、低層併用住宅地区についての補正率の上限を三〇パーセントなどとする別表3記載のとおりの調査結果(以下「本件調査結果」という。)を報告したこと、都においては、本件調査結果を踏まえ、別表2記載のとおり、都市計画街路及び都市高速鉄道の予定地に係る補正率を決定したことが認められる。

しかして、本件調査結果は、その調査方法や基礎資料の選択など調査の過程に格別不合理な点は認められず、都市計画街路及び都市高速鉄道の予定地に係る補正率の調査として信頼するに足りるものであり、本件調査結果を踏まえて決定された取扱要領の都市計画街路及び都市高速鉄道の予定地に係る補正率は、都知事が「所要の補正」を行う場合の基準として十分な合理性を有するものと認められる。

4  そこで、取扱要領に基づき、本件土地が都市計画街路の予定地になっていることによる減価補正についてみるに、本件土地は、その正面路線が普通商業地区に属する土地で、総地積に対する都市計画街路の予定地の地積割合が六〇パーセント以上のものであるから、本件土地については、取扱要領付表13(本判決別表2)に基づき、画地計算において、都市計画街路補正率0.70を適用して三〇パーセントの減価補正を行うべきことになる。

三  本件土地が道路位置の指定を受けていることによる減価補正の要否について

1  原告は、本件土地は、都市計画街路の予定地となっているだけではなく、建築基準法四二条一項五号に基づく道路位置の指定を受けており、本件土地上に建物を建築することができないのであるから、本件土地について、都市計画街路の予定地として三〇パーセントの減価補正を行うだけでは不十分である旨主張する。

2  しかしながら、原告の右主張は採用することができない。その理由は、次のとおりである。

(一) 前記第二の一2(一)(1)記載のとおり、評価基準における土地の評価は、土地の地目別に、評価基準の定める評価の方法により行うものであり、この場合において、地目の認定は、当該土地の現況によって行うものである。

したがって、たとえ、建築基準法四二条一項五号に基づき道路位置の指定を受けている土地であっても、道路としての利用がされずに、宅地、すなわち、建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地(不動産登記事務取扱手続準則(昭和五二年九月三日付け法務省民三第四四七三号通達)一一七条ハ参照)として利用されているものについては、評価基準においては、宅地としての評価を受けるものであり、この場合においては、評価基準上、道路位置の指定を受けていることを理由として特別な減価補正を行うことは予定されていないものである。

もとより、建築基準法四二条一項五号に基づき道路位置の指定を受けている土地を評価する場合において、建築基準法上その土地上に建物を建築することができない点(同法四四条参照)を考慮して一定の減価補正を行うとの考え方も土地の評価方法としてはあり得るところであるが、評価基準が、土地の地目の認定を現況に従って行うこととし、建築基準法四二条一項五号に基づく道路位置の指定を受けていることのみをもっては、特別な減価補正を行わないこととしていることは、評価の適正と均衡を確保しつつ、大量の固定資産を一定の期間内に評価しなければならない固定資産税における評価事務の性質をも考慮すれば、それなりに合理性を有するものであり、右のような評価方法を定めた評価基準それ自体が法に違反する違法なものということはできない。

(二)  右の見地から、本件土地についてみるに、前記第二の二2記載のとおり、本件土地は、隣接建物の敷地に接続している土地であり、建築基準法四二条一項五号に基づく道路位置の指定を受けているものの、平成九年一月一日現在の現況は、その大部分が駐車場として利用されていたほか、その一部には隣接建物に通ずる支柱で支えられた屋根付きの工作物が設置され、道路としての利用はされていなかったのであって、本件土地は、その現況から判断すれば、「建物の維持若しくは効用を果たすために必要な土地」として利用されていたものと認めるのが相当である。

したがって、本件土地は、評価基準上、宅地として評価すべきものであり、この場合において、建築基準法四二条一項五号に基づく道路位置の指定を受けていることを理由として特別な減価補正を行うことは要しないものであ剤。

四  本件決定の適否について

以上によれば、本件土地に対する平成九年度の固定資産税の課税標準となるべき価格を一億九五七一万八四七〇円とする前記第二の三記載の被告の主張する本件土地の評価は、評価基準に従ったものということができるところ、本件において、評価基準自体が違法であるというような特段の事情を認めることはできないから、右の被告の主張する本件土地の評価は、法に従った適法なものというべきである。

そうすると、本件登録価格一億九二九二万三〇二〇円は、本件土地に対する平成九年度の固定資産税の課税標準となるべき価格一億九五七一万八四七〇円を下回るものであるから、原告の本件登録価格に対する審査の申出を棄却した本件決定は適法というべきである。

第四  結論

よって、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官増田稔 裁判官篠田賢治)

別紙<省略>

別表<省略>

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